NY百花繚乱 - 作家 Thomas Harris

ハリスさんのサマーハウスは私とロバートが6年間暮らしてていた小さなアパートから歩いて5分ぐらいの距離にありました。サグハーバーは昔からアーティストと物書きが多く住む街でハリスさんの他有名な劇作家の人も何人か私のお客さんにいました。彼の原作映画で日本でも大ヒットした”羊飼いの沈黙”はジョディー、フォスターとアンソニー、ホプキンス演じるミステリームービーでしたが会話の詳細は日本語の字幕が無いので分かりません。しかしストーリーの展開は理解出来ます。二人の名演技が光ってました。あの映画で殺人鬼バッファロービルをようやくクラリス演じるジョディ、フォスターが探し出すのですがその殺人鬼がゆっくりした動作で踊り出すシーンが何故か脳裏に焼き付いてます。ある日私の店にスコットと言う金髪で髪を長くした男が現れました。彼は私がバーバラの家に行くとその隣りのリッチーの家のカーペンターをしていたので何度か目にしています。何をしに来たのか、と思っていたらビーチに一緒に行こうと言うのです。このスコットと言う男のちょっとスローな動きが私にはあのバッファロービルが踊りだしたシーンと重なってどうにもならないので断りました。皮を剥がされたらタマリません。

ハリスさんの初恋の相手は日本人の女の子だったそうです。ハリスさんの話す英語は南部訛りでまことにのどかで歌うように話されます。ある日ハリスさんがいつもの彼らしく無くちょっと困った様子で話しはじめました。彼のサマーハウスのちょうど向かいの土地に持ち主が家を建てると言うのです。その土地の持ち主の住んでる家を彼は見たと言うのです。そして”あんなuglyな家は今までの人生で見たこと無い、もし自分の家の向かいに同じような家が建ったら大変だ”とこうおっしゃるんです。それで後で他から聞いた話しですが当時としては破格の値段で弁護士を通じてハリスさんが買い取ったそうです。実はそのuglyな家と言うのは以前に私も行ったことのある日系ハワイ人のアーティストの家だったのです。そのアーティストの家に行く用事があって行ったところ彼女から土地を売った云々の話しを聞いて、私はなるほど彼がuglyな家と形容したのはこの家だったのかと合点がいきました。でもハリスさんが口に泡を飛ばしてuglyと強調したのが可笑しくて私は笑ってしまいました。ハリスさんは南部人の持つ独特の暖かいホスピタリティーを持ち合わせ、そして飛び切りチャーミングな紳士です。

 ハリスさんは寡作家です。私がいちばん好きな彼の作品は彼の初期の”Black Sunday"です。彼が長い沈黙を破ってやっとファン待望の作品を仕上げました。私は作品の主人公の名前をどうするかで、いろいろあれでもない、これでもないと相談ののりました。小説の中でパリの古道具屋が出てくるシーンだったか、ハリスさんが”いらっしゃいまし〜”と日本語で挨拶する下りにはそれは女性言葉で男性が使うのは不自然だとアドバイスしました。そして本が発売される前のことですがハリスさんはこのところずっと毎日イーストハンプトンに近い町に録音の吹き込みに行っている、と言うのです。私は何故彼が録音しないといけないのかその意図が理解出来ない為、尚も食い下がりました。そうすると横にいた奥さんがひと声Make Moneyと言われてやっと納得しました。ハリスさんは出版される前に新しい本を私の店に持って来てくれました。いちばん最後のAknowledgementsのページに何と私の名前が出ているではありませんか。日本の出版社ではこの名前は誰だ、マイナーなジャズ歌手と同じ名前なので混同されたそうです。

しかし久々に発表したハリスさんの新作"Hannibal Rising"は残念ながらニューヨークタイムズの書評欄に酷評されて売れ行きも散々だったようです。私なんかに相談したからかもしれません。

 

f:id:NYhyakkaryoran:20170717234501j:plain蔦が生い茂っている二階の小さなアパートに6年住んでました。右手の家の一軒右隣りには日本でもファンが多いポール、デービスさんの家で、テレビの”愉快な仲間”のイラストは彼の作品です。ちなみに彼の友人の横尾忠則氏が彼を訪ねてこられたことがあり、その時ついでに私の店に入って来られました。氏は大真面目で”お化けが出るんです”とおっしゃってました。ハリスさんの家はこのストリートをまっすぐ行き左手に曲がったところにあります。

f:id:NYhyakkaryoran:20170717235348j:plainBilly Joel氏の数ある家のひとつ、中には彼のオートバイのコレクションが収蔵されていて、前が海なので彼の船も繋がれてます。この左側が我々が住んでいたストリートなので Joel氏ともDavis氏ともHarris氏ともご近所でした。