NY百花繚乱 - 想い出の人々 Mrs. Tada

 

 

Mrs. Tadaと初めて会ったのは1981年8月で私が初めてNYに来た年でした。その年私はSFのSloan & Miyasatoのショールームで自分にとってアメリカで初の日本の民芸テキスタイル展を開きオープニングが終わってからシアトルの友人宅を訪ねてその後NYに向かいました。シンシアと落ち合ったのはタイムズスクエア近くのHotel Algonquin W.44 St.でした。もう日はとっくに暮れてその夜が土曜日だったのを覚えております。翌日NYタイムズサンディ版の嵩高さに驚いたからです。シンシア曰くそのホテルは由緒あるホテルだそうでミュージカルがハネると客で大いに賑わうのだそうです。我々はそこで二泊し三泊目から同じ並びのHotel Iroquoisに移動しました。ガクンと音がなるほどの格落ちでしたが致し方ありません。シンシアが我々のNY滞在中のアポを全部取り付けており私はただ黙って付いて行くだけでした。Mrs. Tadaと会ったのは我々がホテルを移動してからのことでした。そこで我々は二日連続して寝過ごしてしまい、起きたら何と午後1時を回っていたのです。シンシアはお詫びの電話を二日続けてすることになり、約束の時間を大幅に遅れてアッパーイーストのMrs. Tadaのアパートに行きました。居間に入るとそこは日本の民芸の小物などが沢山飾られていてその真ん中にMrs. Tadaは猫を抱きながらシンシアと英語で話しておりました。その間私を一瞥することは一切無くまるで私がそこに存在しないかのようでした。1983年暮れに私がブルーミングデールデパートE.60丁目近くに店を開いたことがきっかけでMrs. Tadaと交流が始まったのではないかと思います。しかしシンシアとはあのアポすっぽかし事件後ずっと快く思っておられなかったので私は透明人間で良かったと思っております。

80年代から90年代にかけて私はしばしばMrs. Tadaのアパートを訪ねました。そして彼女の商品も卸しで分けて頂きました。山の手言葉なるものをナマで耳にしたのはMrs. Tadaが初めてでした。その頃ご主人はどこかへ単身赴任されていたようで何時もお留守でした。彼女は猫のノラちゃんと二人で仲良く暮らしていたようです。それから何年経ったのか分かりませんがご主人が退職されてNYのアパートに何時も顔を見せるようになりました。まだノラちゃんが健在だった頃です。私が行くとMrs. Tadaのケンのある声がしばしば聞こえてきます。どうやら何時もご主人に向かって発っせられているようです。その証拠にノラちゃんに声を掛ける時はまさにネコ撫で声のトーンで彼女の声が一気に優しくなるのです。Mrs. Tadaは色んなものを見せてくれました。素晴らしい郷陽さんの市松人形、バーナードリーチ氏、浜田庄司氏、島岡達三氏等有名な作家の作品がクローゼットから次から次へと出てきます。皆さんがNYに来られた時に彼女が案内をしたりと長年作家達の交流があったからそれらは贈答品として頂いた品々だそうです。だから箱書きはありませんでした。

2000年に入ってからは彼女との交流もめっきり途絶えがちになっておりましたが2012年2月にSFのMrs. Tadaを訪ねた時はたぶんもう私のことを覚えておられたかどうか今となっては定かではありません。私はその時に彼女のゲスト用のベッドルームの本棚から一冊の本を見つけました。それは彼女のお兄様である星新一氏のことが書かれてあり私は日本に戻ると早速その本を取り寄せて読みました。そして星新一氏が書かれた”祖父小金井良精”の本も読みました。その二冊の本を読んで私はやっと長年の謎が解けたのです。と言うのは私は彼女が星製薬のご令嬢で裕福に育ったにも拘らず”とても質素だったわ、学者の家だったから”とおっしゃったのがずっと心に引っかかっていたのです。

Mrs. Tadaの祖母は明治の文豪森鴎外の妹の喜美子さんで耽美派の美しい作品を残された森茉莉さんとは従兄弟同士にあたるのか、とにかくMrs. Tadaからこぼれる話しによると家族関係は余り良くなかったように見受けられました。そしてMrs. Tadaの晩年はSFの日系老人ホームで2014年にひっそり閉じられたそうです。

f:id:NYhyakkaryoran:20170623215109j:plainSFのマーク宮里のショールームでのオープニング パーティ 1981年8月

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マーク宮里その彼も80年代に亡くなる

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                               ありし日のMrs. Tada